よく晴れた秋の午後、森の研究所では、ちくわ君が赤い木の実をかじりながら、のんびりと新聞を読んでいた。
「ちくわさん!大変です!というか、こまっています!」勢いよく扉が開いて、はんぺん君が頭を抱えて駆け込んできた。「分散がいいのも、長く持つといいのも分かりました。でも、いざやろうとしたら、森には会社が何百社もあって……。どれが健康な会社か、ぜんぶ調べて、たくさん買い分けるなんて、僕にはとても無理です!」
ちくわ君は嬉しそうに目を細めた。「ふふ、はんぺん君、とてもいい壁にぶつかったね。じつはね、その悩みをまるごと解決してくれる、とっておきの方法があるんだ。今日は『インデックス投資』を教えよう」
「いんでっくす……?」
「まず『インデックス』というのは、市場全体の平均点のことなんだ。森じゅうの会社の株価を、ぜんぶまとめて平均した数字――いわば『森の景気の体温計』だね。新聞によく出ている、ああいう数字のことだよ」
「森全体が元気なときは上がって、しょんぼりしているときは下がる、その数字ですか」
「そのとおり。そして『インデックス投資』というのは、その平均点とおなじように増えたり減ったりするよう、市場まるごとを少しずつ買ってしまう、という方法なんだ。一口買うだけで、何百社もの株を、ほんの少しずつぜんぶ持てる。図にするとこんなイメージだよ」
「わぁ、これなら一回買うだけで、自動的にいろんな会社に分散できちゃうんですね!一社ずつ調べなくても!」はんぺん君は目を輝かせた。
「そういうことだ。前に話したことを、思い出してごらん。たくさんに分けて持つと、振れ幅がやわらぐ。長く持つと、複利が効いてくる。インデックス投資は、その二つを、いっぺんに、しかも手間なく実現できるんだ」
「分散と長期が、一つにまとまってるんですね……!」
「しかもね、もう一ついいことがある。市場まるごとを、ただ平均どおりに持つだけだから、手間がかからない。手間がかからないということは、かかる費用――手数料も、うんと安くすむことが多いんだ。前に話したとおり、手数料は長い年月で複利のように効いてくる。だから、費用が安いのは、それだけで大きな強みなんだよ」
「分散も、長期も、低コストも、ぜんぶつながってるんですね。なんだか感動してきました」
「いい気づきだ。それにね、はんぺん君。こんなことも知られているんだ。株えらびのプロが、頭をしぼって『これぞ』という会社を選び抜いても、長い目で見ると、ただ市場の平均点をそのまま持つやり方に勝ち続けるのは、とてもむずかしい、とね」
「ええっ、プロでも、平均に勝てないんですか!?」はんぺん君は飛び上がった。
「いつもではないよ。でも、長く続けるほど、平均に勝つのは難しくなる。だからこそ、欲ばって市場に勝とうとせず、『市場とおなじでいい』と考えるインデックス投資は、多くの人にとって、とても理にかなった方法なんだ」
ちくわ君はそこで、木の実を持つ手を止めて、少し真剣な顔になった。「ただし、はんぺん君。これにも、忘れてはいけない注意があるよ」
「はい、なんでしょう?」はんぺん君は背筋を伸ばした。
「市場まるごとを持っていても、森全体に嵐が来れば――世の中ぜんぶが落ちこむときには、やっぱり一緒に下がってしまう。インデックス投資は、一社のつまずきには強いけれど、市場ぜんぶが沈むときには、ちゃんと沈むんだ。だから『絶対に損しない方法』では、けっしてない」
「市場まるごとでも、安全とは限らないんですね」
「そうだ。それに、平均を持つということは、大化けする一社をあてて大もうけ、という派手な夢も、ほどほどになるということでもある。それでも、こつこつ、長く、世界の成長とともに育っていく。それがインデックス投資の性格なんだ。そして、過去ずっと右肩上がりだったからといって、これから先もそうとは限らない。それも、心のすみに置いておくれ」
「派手さよりも、こつこつ。だけど、未来は保証されていない。なんだか、これまでの話ぜんぶの、まとめみたいですね」
「みごとだ、はんぺん君。まさにそのとおり。今日は、インデックスが『市場全体の平均点』であること。それを丸ごと買うインデックス投資が、分散・長期・低コストを一度に叶えてくれること。でも、市場ぜんぶが沈むときには勝てないこと。これを覚えて帰っておくれ」
はんぺん君は、ぱっと顔を上げた。「はい!何百社も調べなきゃ、ってあせっていたのが、うそみたいです。ちくわさん、ありがとうございました!」
「いい顔だ。さて、道具の話は、今日でひととおりそろったね。次はいよいよ最後の話。どんなにいい道具を持っていても、最後にいちばん手ごわい相手が残っている。それは――自分自身の心なんだ」
「自分の心、ですか……?気になります。最後まで、ぜひ教えてください!」はんぺん君は元気よく手を振って、秋の森へ駆けていった。
一人になったちくわ君は、窓の外に広がる森ぜんぶを眺めた。一本一本ではなく、森という大きなまとまりが、ゆっくりと育っていく。その見方を渡せたなと思うと心が弾んで、ちくわ君は新しい赤い木の実へ手を伸ばした。
森の研究所には、今日も学びの秋の気配が満ちていた。