ちくわ君と学ぶ株⑥ チャートと移動平均線

よく晴れた秋の午後、森の研究所では、ちくわ君が赤い木の実をかじりながら、画面に映る一枚のグラフを眺めていた。

「ちくわさん!大変です!」勢いよく扉が開いて、はんぺん君が一枚の紙を握りしめて駆け込んできた。「株のことを調べていたら、こんなギザギザのグラフが出てきたんです。毎日ぴくぴく動いていて、見ているだけで目が回っちゃって……。これ、どう読んだらいいんですか?」

ちくわ君は嬉しそうに目を細めた。「おお、チャートを見つけてきたね。それは株価の動きを時間の順に並べたグラフで、『チャート』というんだ。今日は、そのギザギザとの上手なつきあい方を教えよう」

「お願いします!このギザギザ、ぜんぜん規則が分からなくて」

「うん、その『分からなさ』こそが、まず大事な気づきなんだ。株価は毎日、いろんな人の期待や不安でぴくぴく揺れる。一日や二日の動きを追いかけても、ただ目が回るだけなんだよ。そこで、昔の人は賢い工夫を考えた。『何日かの平均をとって、ならしてみよう』とね」

「ならす、ですか?」

「そう。たとえば、今日をふくめた直近五日間の株価を平均する。それを毎日くりかえして、点をつないでいくんだ。これを『移動平均線』という。一日ごとのギザギザは消えて、全体がどっちに向かっているか――流れが見えてくるんだよ。実際に見てみよう」

100 110 120 130 日々の株価 5日移動平均線(ならした流れ)
図:細い線が日々のギザギザ、太い線がそれをならした移動平均線。流れが見えてくる

「わぁ、ほんとだ!細いギザギザの線は上がったり下がったりで忙しいのに、太い線はなめらかで、ゆっくり右上に向かってます!」はんぺん君は画面に顔を近づけた。

「そうだろう。これがテクニカル分析――値動きそのものから流れを読む方法の、いちばん基本の道具なんだ。前に話した、会社の中身を調べる方法を覚えているかい?利益や財産を見る、あの健康診断だね。あれと、この値動きを読む方法は、車の両輪のようなものなんだ」

「会社の中身を見るのと、値動きの流れを見るの、二つの目で見るんですね」

「その通り。移動平均線が上を向いていれば、流れはおおむね上り調子。下を向いていれば、下り調子。ギザギザに一喜一憂せず、大きな流れをつかむ。それがこの線のいいところだよ。何日分を平均するかで、線の性格も変わる。五日くらいの短い平均は流れに素早く反応するし、半年や一年の長い平均は、どっしりした大きな流れを見せてくれる」

「短い線と長い線で、見える景色が違うんですね。面白いなあ」

ちくわ君はそこで、木の実を持つ手を止めて、いつもより少し強い調子で言った。「さて、はんぺん君。今日はここがいちばん大事だから、よく聞いてほしい」

「はい!」はんぺん君は背筋を伸ばした。

「この移動平均線は、あくまで『過ぎたことをならした線』なんだ。未来がどうなるかを教えてくれる魔法の線では、けっしてない。線が上を向いているからといって、明日も上がる保証はどこにもない。チャートの形には、それらしい名前のついたパターンがいくつもあって、つい『この形が出たら上がる』と信じたくなる。でも、そう単純に当たるものなら、世界中の誰もが大金持ちになっているはずだろう?」

「た、たしかに……。みんなが当てられるなら、苦労しないですよね」

「そうなんだ。チャートは、過去の流れと、今みんながどんな気分でいるかを映す鏡。それ以上でも以下でもない。未来を予言する水晶玉ではないんだよ。だからこそ、値動きの流れと、会社の中身。その両方の目で、落ち着いて見ることが大切なんだ」

「ギザギザに振り回されず、でも線を信じすぎず、なんですね。なんだか株って、いつも『そればかりを信じちゃだめ』って教わってる気がします」

ちくわ君は声をあげて笑った。「はは、はんぺん君、それこそが今までで一番の発見かもしれないよ。一つのものさし、一つのサインを過信しないこと。それが、お金とかしこくつきあう、いちばんの土台なんだ」

「なんだか、株の勉強って、生き方の勉強みたいですね」

「いいことを言うね。今日は、チャートが株価の流れを映すグラフであること、移動平均線がギザギザをならして流れを見せてくれること。そして、それは過去の記録であって、未来の予言ではないこと。これを覚えて帰っておくれ」

「はい!ありがとうございました。もうあのギザギザ、こわくありません。ちゃんと流れを見てみます!」はんぺん君はチャートの紙を大事そうにたたんで、秋の森へ元気よく駆けていった。

一人になったちくわ君は、窓の外でゆれる木々を眺めた。風に揺れる枝も、遠くから見れば、ちゃんと一つの方向へ育っている。流れを見る目を渡せたなと思うと心が弾んで、ちくわ君は新しい赤い木の実へ手を伸ばした。

森の研究所には、今日も学びの秋の気配が満ちていた。

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