よく晴れた秋の朝、森の研究所では、ちくわ君が赤い木の実をかじりながら、のんびりと手紙の束を整理していた。
「ちくわさん!大変です!というか、すごいんです!」勢いよく扉が開いて、はんぺん君が一枚の紙きれと、小さな袋を抱えて駆け込んできた。「この前、勉強のつもりでジュース会社の株を一株だけ持っていたら、お手紙と一緒にドングリが三十個も届いたんです!それと、このジュース引換券も!何もしていないのに、どうして?」
ちくわ君は嬉しそうに目を細めた。「おお、はんぺん君、はじめての配当だね。おめでとう。それはね、はんぺん君がその会社のオーナーの一人だからこそ受け取れたものなんだよ。今日は、株を『持ち続けることでもらえるもの』の話をしよう」
「持ち続けるだけで、もらえるんですか?」
「そう。まず、その三十個のドングリ。それが『配当』だ。前に話したのを覚えているかな。会社が一年がんばって稼いだ利益。その一部を、オーナーである株主に『いつもありがとう』と分けてくれるんだ。たくさん株を持っている人ほど、たくさん受け取れる」
「あっ、これが配当なんですね!利益を分けてもらえるって、こういうことだったんだ」
「そういうことだよ。ここで、便利なものさしを一つ教えよう。はんぺん君は、その株をいくらで買ったんだい?」
「ええっと、一株を千個で買いました」
「なら、千個出して、一年で三十個もらえた。三十を千で割ると、三パーセント。これを『配当利回り』というんだ。出したお金に対して、一年でどれくらい配当がもらえるかを表す割合だよ。利回りが高いほど、お金を出した甲斐があるように見えるね」
「三パーセント……。銀行に預けておくよりは、ずっと多くもらえる気がします」
「そう感じる人は多いね。そしてもう一つ、その引換券。それは『株主優待』といって、配当とはまた別のおまけだ。株主への感謝として、会社が自分のところの商品やサービスを贈ってくれる。このジュース会社なら、自慢のジュース引換券、というわけだね。これは森の――いや、この国でとくに人気のある仕組みなんだよ」
「お金だけじゃなくて、商品ももらえるんですか!なんだか、応援している会社からのプレゼントみたいで、うれしいです」
「いい受け止め方だね。さて、ここで株の『儲け方』を整理しておこう。じつは、株でお金を得る道は、大きく二つあるんだ」ちくわ君はホワイトボードに二つの絵を描いた。
「一つ目は、前に話した『値上がり益』。安いときに買って、高くなってから売る。その差が儲けになる。でもこれは、売ってはじめて手に入るし、思ったように値上がりするとは限らない。二つ目が、今日の『配当』だ。売らずに持ち続けているあいだ、毎年こつこつ受け取れる」
「同じ株でも、ぜんぜん違う二つの楽しみ方があるんですね」
「そうなんだ。どきどきしながら値上がりを待つのもいいし、お気に入りの会社を応援しながら、配当と優待をのんびり受け取るのもいい。どちらが正しいというものではないよ」
ちくわ君はそこで、木の実を持つ手を止めて、少し真剣な顔になった。「ただし、はんぺん君。配当にも、気をつけることがあるんだ」
「えっ、こんなにうれしいものなのに、ですか?」
「うん。配当は、約束されたものじゃないんだ。会社が稼げなくなれば、配当は減ってしまうし、ゼロになることもある。これを『減配』『無配』というんだ。だから『利回りが高いから』というだけで飛びついてはいけない。利回りがやけに高いときは、株価がうんと下がっているせいかもしれない。つまり、その会社が苦しくて、来年は配当を出せないかもしれない、という危険信号のこともあるんだよ」
「高い利回りが、かえって危ないサインのこともあるんですね……」
「そういうことだ。株主優待も同じで、会社の都合で、ある日とつぜん終わってしまうこともある。優待ほしさだけで株を選ぶのも、考えものなんだ。大事なのは、前に話した『会社の健康』がしっかりしていること。健康な会社が出す配当こそ、長く続く本物の配当なんだよ」
「なるほど。配当や優待は、健康な会社からのごほうび。まず会社が元気かどうか、なんですね」
「みごとにまとまったね、その通りだ。今日は、株を持ち続けると『配当』と『株主優待』がもらえること。儲け方には『値上がり益』と『配当』の二つがあること。そして、利回りの高さだけで飛びつかないこと。これを覚えて帰っておくれ」
はんぺん君は、もらったドングリを大事そうに袋にしまった。「はい!この三十個、使わずに記念にとっておきます。ちくわさん、ありがとうございました!」
「ふふ、それはいい記念だね。次は、株価の動きそのものを図で読む方法――チャートの見方を教えよう。きっと面白いよ」
「チャート!楽しみです。また来ます!」はんぺん君は引換券を握りしめて、秋の森へ元気よく駆けていった。
一人になったちくわ君は、窓の外でゆれる木々を眺めた。お金を増やすだけでなく、会社を応援する喜びも伝えられたなと思うと心が弾んで、ちくわ君は新しい赤い木の実へ手を伸ばした。
森の研究所には、今日も学びの秋の気配が満ちていた。