ちくわ君と学ぶ株③ 会社の値打ちのはかり方

数日後の秋の午後、森の研究所では、ちくわ君が赤い木の実をかじりながら、二つの会社の資料を見比べていた。

「ちくわさん!大変です!」勢いよく扉が開いて、はんぺん君が二枚のチラシを握りしめて駆け込んできた。「森に二つのジュース会社があって、どっちも株が一株千個のドングリで売られているんです。同じ値段なら、どっちを買っても同じですよね?でも、なんだかそれでいいのか不安で……」

ちくわ君は嬉しそうに目を細めた。「おお、いいところで悩んでいるね。前に話したのを覚えているかな。株価は、みんなの期待で決まるって。でも値段が同じでも、中身が同じとは限らないんだ。今日はその『会社の本当の値打ち』のはかり方を教えよう」

「それ、知りたかったんです!数字に振り回されないようになりたくて」はんぺん君は身を乗り出した。

「いい心がけだ。まず質問だよ。はんぺん君が会社まるごとのオーナーになるとしたら、その会社の値打ちは、何で決まると思う?」

「うーん……やっぱり、これからどれくらい儲けてくれるか、ですか?」

「大正解だ!会社の値打ちのおおもとは、『これから稼いでくれる利益』なんだ。前に話した配当も、もとをたどれば会社の利益から出ている。だから、利益をたくさん生む会社ほど、値打ちが高い。じゃあ、その利益と株価を見比べてみよう」

ちくわ君は二つの会社の数字をホワイトボードに並べた。

「二つの会社、どちらも株価は千個。でも、一株あたりが一年で稼ぐ利益が違うんだ。A社は一株あたり百個の利益を生む。B社は五十個だ。さあ、この会社をまるごと買ったとして、何年で元が取れるか、計算してみよう」

「えっと、A社は千を百で割って……十年!B社は千を五十で割って、二十年です」

「その通り。これが『株価収益率』、英語の頭文字をとってPERと呼ばれる、いちばん有名なものさしだよ。むずかしい名前だけど、中身は今やったとおり、『株価が、一年の利益の何年分か』というだけなんだ」

A社 株価 1000個 利益 100個/年 PER 10倍 10年で元が取れる → 割安 B社 株価 1000個 利益 50個/年 PER 20倍 20年で元が取れる → 割高 同じ株価でも、利益が大きいA社のほうが「割安」 PER = 株価 ÷ 1株あたりの年間利益
図:株価が同じでも、稼ぐ利益が違えば「割安・割高」が分かれる。PERはその目安

「PERが小さいほど、少ない年数で元が取れる。つまり、利益のわりに株価が安い『割安』な会社、ということになる。逆にPERが大きいと、利益のわりに株価が高い『割高』な会社だね」

「じゃあ、PERが小さいA社のほうが、お買い得ってことですね!B社よりA社を買えばいいんだ!」はんぺん君は目を輝かせた。

ちくわ君は木の実を持つ手を止めて、にっこりしながら首を横に振った。「はんぺん君、その勢いは大好きだけど、ここがいちばん大事な落とし穴なんだ。PERが小さいから良い会社、とは限らないんだよ」

「えっ、割安なのに、ですか?」はんぺん君はきょとんとした。

「考えてもごらん。B社のPERが高いのは、みんなが『この会社はこれからぐんぐん利益を伸ばす』と期待しているからかもしれない。今の利益は小さくても、来年は二倍、再来年はもっと、とね。逆にA社が割安なのは、『この会社はこれから利益が減りそうだ』と心配されているからかもしれない」

「あっ……今の数字だけ見ても、未来までは分からないんだ」

「そういうことだ。PERは、あくまで『今の株価が、今の利益の何年分か』を示すだけ。未来に利益がどう変わるかは、教えてくれない。それに、この『一年の利益』という数字自体が、会社の予想であることも多いんだ。予想が外れれば、PERの意味もずれてしまう」

「ものさしは便利だけど、それだけを信じちゃいけないんですね」

「いい言葉だ。PERは、同じような商売をしている会社どうしを見比べるときの、最初の手がかりになる。でも、それ一つで『買い』『売り』を決めるのは危うい。会社が借金まみれじゃないか、商売の中身は健全か、いろんな角度から確かめて、はじめて値打ちが見えてくるんだ」

「いろんな角度……。なんだか、会社のお医者さんになったみたいですね」

「うまいことを言うね、まさに健康診断だよ」ちくわ君は楽しそうに新しい木の実を口に放り込んだ。「PERは体重みたいなもので、大事な数字の一つだけど、それだけで健康かどうかは決まらない。次は、会社の体の中をのぞく『健康診断のしかた』を教えよう。会社がどれだけ稼いで、どれだけ持っていて、どれだけ借りているか。それが読めると、ぐっと深く会社を見られるようになるよ」

はんぺん君は、ぱっと顔を上げた。「会社の健康診断!それも知りたいです。今日でやっと、同じ株価でも中身が違うってことが分かりました」

「上等だ。今日は、会社の値打ちのおおもとが『これから稼ぐ利益』であること、そしてPERという『株価が利益の何年分か』のものさし。これを覚えて帰っておくれ。ただし、ものさし一つを信じすぎないこと。これも忘れずにね」

「はい!ありがとうございました。さっそく二つのチラシ、もう一度よく見比べてみます!」はんぺん君は二枚のチラシを大事そうに抱えて、秋の森へ駆けていった。

一人になったちくわ君は、窓の外でゆれる木々を眺めた。数字の意味と、その限界。その両方をいっしょに渡せたなと思うと少し心が弾んで、ちくわ君は新しい赤い木の実へ手を伸ばした。

森の研究所には、今日も学びの秋の気配が満ちていた。

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