ちくわ君と学ぶ株② 株価はなぜ動く

よく晴れた秋の朝、森の研究所では、ちくわ君が赤い木の実をかじりながら、前の日に話した株のことを思い返していた。

「ちくわさん、おはようございます!」勢いよく扉が開いて、はんぺん君が元気いっぱいに駆け込んできた。「昨日の続きが気になって、夜もそわそわしちゃいました。株の値段って、いったい誰がどうやって決めているんですか?森のお店みたいに、誰かが値札をつけているんですか?」

ちくわ君は嬉しそうに目を細めた。「いい質問を覚えていたね。実はね、株の値段に値札をつけている人は、どこにもいないんだ」

「えっ、誰も決めていないんですか?」はんぺん君は目を丸くした。

「誰か一人が決めているわけじゃない、ということだよ。株の値段は、『買いたい人』と『売りたい人』が出会って、自然に決まるんだ。はんぺん君、森のせり市に行ったことはあるかい?」

「あります!この前、めずらしい大きなドングリに、みんなが『五十個出す!』『いや六十個!』って競りあって、どんどん値段が上がっていくのを見ました」

「まさにそれだよ。株の値段も、あれとそっくりな仕組みで動いているんだ。欲しい人がたくさんいて、売りたい人が少なければ、値段はぐんぐん上がっていく。逆に、売りたい人ばかりで欲しい人が少なければ、値段は下がる。これを『需要と供給』と呼ぶんだ」

「需要が買いたい気持ち、供給が売りたい気持ち、ですね」

「のみこみが早いね。じゃあ、もう少しくわしく見てみよう。株の取引所には、いつも『この値段でなら買いたい』という注文と、『この値段でなら売りたい』という注文が、たくさん並んでいるんだ」

ちくわ君はホワイトボードに、注文がずらりと並んだ表を描いた。

ある会社の注文板 売りたい人 103円30株 102円50株 101円20株 この境目で値段が決まる(100〜101円) 買いたい人 100円40株 99円60株 98円35株 ↑ 高く売りたい ↓ 安く買いたい 両者の希望が出会うと取引成立
図:注文板。売りたい人と買いたい人の希望価格が出会ったところで、取引が成立する

「上のほうが『この値段で売りたい』という人たち、下のほうが『この値段で買いたい』という人たちだ。よく見てごらん。売りたい人は、なるべく高く売りたいよね。買いたい人は、なるべく安く買いたい。だから、すぐには折り合わないんだ」

「ほんとだ。売りたい人の一番安い注文が百一円で、買いたい人の一番高い注文が百円。一円だけ、希望がずれてますね」

「鋭いね。ここで、どうしても今すぐ買いたい人が現れたとする。その人は『百一円でもいいから買う!』と、売り注文に飛びつく。すると、百一円で取引が成立する。これが、その瞬間の株価になるんだ」

「なるほど!取引が成立した、いちばん新しい値段が『今の株価』なんですね」

「そういうことだ。だから株価は、取引のたびにちょこちょこ動く。買いたい人が増えて売り注文をどんどん食べていけば、株価はじりじり上がっていく。逆に、売りたい人が殺到すれば、安い買い注文まで値が下がっていくんだ」

「お祭りのせり市が、一日じゅうずっと続いているみたいな感じですね」

「うまい例えだ、まさにそうだよ」ちくわ君は楽しそうに木の実を一つ口に放り込んだ。「じゃあ、ここで本当の核心に進もう。どうして『買いたい人』や『売りたい人』が、増えたり減ったりするんだと思う?」

「うーん……その会社の人気、ですか?」

「人気、いい言葉だね。もう少しくわしく言うと、『その会社が、これからもっと儲かりそうだ』とみんなが思えば、株を欲しがる人が増えて、株価は上がる。逆に『これから苦しくなりそうだ』と思われれば、売りたい人が増えて、株価は下がる。つまり株価は、その会社の“未来への期待”を映す鏡なんだ」

「未来への期待……。今のことじゃなくて、これからどうなるか、なんですね」

「そこが株のいちばん面白くて、いちばん難しいところだよ。たとえば、はんぺん君のジュース店が『新しい味が大ヒットしそうだ』というニュースが流れたとする。すると、まだ実際に売れる前から、『今のうちに株を買っておこう』という人が増えて、株価は先に上がり始めるんだ」

「まだ売れてもいないのに、期待だけで上がるんですか?」はんぺん君は驚いた。

「そうなんだ。だから、いいニュースや悪いニュース、世の中の景気、ときにはうわさ話ひとつで、株価はゆれ動く。みんなの期待や不安が、一円きざみの注文になって、板の上でぶつかり合っているんだよ」

ちくわ君はそこで、少し真剣な顔になった。「ここで、大事な注意を一つ。株価は“期待”で動くからこそ、ときに行きすぎることがあるんだ」

「行きすぎる、ですか?」

「うん。『みんなが買っているから、自分も乗り遅れたくない』という気持ちだけで、会社の中身とかけ離れて値段がどんどん上がってしまうことがある。でも、期待だけでふくらんだ値段は、ちょっとしたきっかけでしぼんでしまう。だから、株価という数字だけを追いかけて一喜一憂するのは、とても危ういんだよ」

「数字が上がってるからいい会社だ、とは限らないんですね」

「その通り。値段は“みんなの気持ち”で決まる。気持ちは移ろいやすい。だからこそ、次は『その会社が本当はどれくらいの値打ちなのか』を、自分の目で確かめる方法を知る必要がある。それが分かると、今の株価が高すぎるのか安すぎるのか、自分で考えられるようになるんだ」

はんぺん君は、ぱっと顔を上げた。「それ、すごく知りたいです!数字に振り回されないで、自分で考えられるようになりたいです!」

「いい心がけだ。会社の値打ちのはかり方は、また次の機会にじっくり話そう。今日は、株価が『買いたい人と売りたい人の出会い』で決まること、そして『未来への期待』を映す鏡だということ。これを覚えて帰っておくれ」

「はい!今日もありがとうございました。せり市を思い出すたびに、株価のことを考えちゃいそうです!」はんぺん君は元気よく手を振って、秋の森へ駆けていった。

一人になったちくわ君は、窓の外でゆれる木々を眺めた。値段の裏側で、たくさんの人の期待と不安がぶつかり合っている。その動きの面白さを伝えられたなと思うと少し心が弾んで、ちくわ君は新しい赤い木の実へ手を伸ばした。

森の研究所には、今日も学びの秋の気配が満ちていた。

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