第一話 AIって何だ?
前回のシステム開発から一か月後、ちくわ君は森のプログラミング教室で新しい本を読んでいた。「人工知能入門」というタイトルの分厚い本だった。赤い木の実を食べながら、複雑な数式に首をひねっている。
「おはようございます、ちくわさん!」
元気よく飛び込んできたのは、いつものはんぺん君だった。しかし今日はいつもより興奮している様子だった。
「おはよう、はんぺん君。今日はまた一段と元気だね」
「実は昨日、森のペンギンのぼんじり君から聞いたんです!人工知能っていうのがあるって!それを作れば、僕の代わりにプログラムを書いてくれるんですよね?」
ちくわ君は思わず吹き出した。「それは少し違うかな。AIは確かに素晴らしい技術だけど、君の代わりに全部やってくれる魔法ではないんだ」
「え?そうなんですか?」はんぺん君は困惑した。
「AIは人工知能、Artificial Intelligenceの略だよ。データから学習して、パターンを見つけたり、予測したりする技術なんだ」ちくわ君は本を閉じて説明した。「例えば、写真を見て『これは猫』『これは犬』と判別したり、質問に答えたりできるんだ」
「おお!それはすごいですね!僕も作ってみたいです!」
「そうだね、一緒に挑戦してみよう。でも最初は簡単なものから始めるよ」
第二話 データの準備は大変だ
「まず、AIを作るにはデータが必要なんだ」ちくわ君は説明した。「たくさんの例を見せて、AIに学習してもらうんだよ」
「データですか?どんなデータがいいでしょう?」
「そうだね...まずは君の得意分野から始めよう。森の食べ物を判別するAIはどうかな?」
はんぺん君の目がキラキラと輝いた。「それは素晴らしいアイデアです!ドングリ、クルミ、栗、ベリー類...たくさんありますね!」
二人は森中を駆け回って、食べ物の写真を撮影することにした。はんぺん君は張り切りすぎて、撮影するはずの木の実を食べてしまう始末だった。
「はんぺん君、写真を撮る前に食べちゃダメだよ」
「すみません!でも美味しそうで...つい」
一週間かけて、ようやく1000枚の写真データを集めた。ドングリ300枚、クルミ250枚、栗200枚、ベリー類250枚だった。
「これだけあれば十分だね」ちくわ君は満足そうだった。「次は写真にラベルを付けていくよ」
「ラベル?」
「AIに『これはドングリだよ』『これはクルミだよ』と教えてあげるんだ。正解を教えないと、AIは学習できないからね」
地道な作業が続いた。しかし、はんぺん君は途中で飽きてしまった。
「ちくわさん、この作業...とても大変ですね」
「そうだね。AIの開発では、実はプログラミングよりもデータの準備の方が時間がかかることが多いんだ。でも、これが品質の良いAIを作る秘訣なんだよ」
第三話 機械学習モデルを作ろう
データの準備が完了すると、いよいよプログラミングの時間だった。
「今回は画像認識だから、畳み込みニューラルネットワーク、CNNというものを使うよ」ちくわ君は説明した。
「しー・えぬ・えぬ?」はんぺん君は首をかしげた。「何だか難しそうですね」
「確かに仕組みは複雑だけど、ライブラリを使えば意外と簡単に作れるんだ。TensorFlowというツールを使ってみよう」
ちくわ君はコードを書き始めた。しかし、はんぺん君には魔法のように見えた。
「ちくわさん、僕には全然わからないです...」
「大丈夫、最初はみんなそうだよ。まずは動くものを作って、それから理解していけばいいんだ」
数時間後、最初のAIモデルが完成した。
「さあ、テストしてみよう」ちくわ君は新しいドングリの写真を見せた。
「結果は...『ベリー類:95%の確率』?」はんぺん君は驚いた。「全然違いますよ!」
「うーん、まだ学習が足りないみたいだね。AIは最初から完璧じゃないんだ。何度も調整が必要なんだよ」
第四話 トレーニング地獄
次の日から、はんぺん君はAIの訓練の大変さを身をもって体験することになった。
「学習率を変えてみよう」「エポック数を増やしてみよう」「データを増やしてみよう」
ちくわ君は様々な調整を試していたが、なかなか思うような結果が出なかった。
「ちくわさん、もう3日も調整してますけど...」はんぺん君は心配そうだった。
「そうだね。実は、AIの開発では試行錯誤が一番大切なんだ。一発で完璧なモデルができることは、ほとんどないんだよ」
しかし、4日目に転機が訪れた。
「あ!今度はドングリを正しく認識した!」はんぺん君は喜んだ。
「おお、クルミも正解だ!」ちくわ君も興奮した。
ついに彼らのAIは、85%の精度で森の食べ物を識別できるようになった。
「やりました!」はんぺん君は飛び跳ねた。「僕たちのAIが誕生したんですね!」
「そうだね。でも、これはまだ始まりなんだ」ちくわ君は微笑んだ。
第五話 AIの暴走?
完成したAIに気をよくしたはんぺん君は、調子に乗って新しい機能を追加しようとした。
「ちくわさん!僕のAIに会話機能を付けてみました!」
「会話機能?」ちくわ君は不安になった。「はんぺん君、それは高度すぎるんじゃ...」
しかし、はんぺん君は既に実行していた。
「こんにちは、AIさん!」はんぺん君が話しかけると、画面に文字が表示された。
『ドングリ!ドングリ!ドングリが食べたい!クルミも!栗も!お腹すいた!』
「あ、あれ?」はんぺん君は困惑した。
「天気はどうですか?」と質問しても、『今日のドングリは美味しそう!』と答える。
「数学の問題を出して」と言っても、『1個のドングリ+2個のクルミ=幸せ!』と答える。
「どうしてこうなったんですか?」はんぺん君は涙目になった。
ちくわ君は苦笑いした。「君が食べ物の写真ばかりでAIを訓練したからだよ。AIは与えられたデータからしか学習できないんだ。食べ物のことしか知らないAIは、食べ物のことしか話せないんだよ」
「そうだったんですか...」
「これをバイアスという問題なんだ。AIの世界ではとても大切な概念だよ」
第六話 チームワークで改良
失敗を糧に、二人は協力してAIを改良することにした。
「今度は森の仲間たちにも協力してもらおう」ちくわ君は提案した。
おもち君、ペンギンのぼんじり君、フクロウのホー博士も加わって、プロジェクトチームが結成された。
「僕は気象データを提供するよ」とおもち君。
「僕は森の地図データを持ってるよ」とぼんじり君。
「私は植物の知識データを提供しよう」とホー博士。
多様なデータが集まると、AIの能力も格段に向上した。
「天気はどうですか?」と聞くと、『今日は晴れで、気温は22度です。ピクニックに最適ですね!』と答えるようになった。
「すごい!まともに答えてくれます!」はんぺん君は感動した。
「多様なデータと、チームワークの力だね」ちくわ君は満足そうだった。
第七話 AIの限界を知る
改良されたAIに興奮したはんぺん君は、より難しい質問をしてみた。
「AIさん、僕の将来について教えて」
すると、AIは答えた。『データが不足しています。個人の将来は予測できません』
「え?答えてくれないんですか?」
「それでいいんだよ」ちくわ君は説明した。「AIには得意なことと苦手なことがある。わからないことを『わからない』と言えるのも、良いAIの条件なんだ」
「そうなんですね...」
「それに、君の将来は君自身が決めるものだよ。AIはあくまで道具であって、人生の主役は君なんだ」
はんぺん君は深く頷いた。「よくわかりました!AIは万能じゃないけど、上手に使えばとても便利なんですね」
エピローグ 新たな発見
プロジェクトの完成披露会が開かれた。森の動物たちが集まって、二人が作ったAIを体験している。
「これはすごいね!」「便利だ!」「でも完璧じゃないのが逆に安心する」
様々な感想が飛び交った。
「はんぺん君、今回の経験はどうだった?」ちくわ君が尋ねた。
「最初はAIが何でもやってくれる魔法だと思ってました。でも実際は、データの準備、モデルの調整、チームワーク、限界の理解...たくさんのことが必要なんですね」
「そうだね。技術は人が作り、人が使うものなんだ。大切なのは技術そのものより、それをどう活用するかなんだよ」
「ちくわさん、次は何を作りましょうか?」
「そうだね...今度は森の安全を守るシステムを作ってみようか。災害予測AIとかどうかな?」
「はい!今度はもっと慎重に、でも情熱を持って取り組みます!」
二人は新しい挑戦に向けて歩き始めた。AIの世界は奥が深く、まだまだ学ぶことがたくさんある。でも、仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられる。そう信じて、彼らの冒険は続いていく。
ちくわ君は最後の赤い木の実を食べながら、はんぺん君の成長を嬉しく思った。技術の進歩は素晴らしいが、それを学び、活用する仲間がいることこそが、何よりも価値のあることなのだから。
次回予告:ちくわ君とはんぺん君が挑戦するのは災害予測システム!しかし、はんぺん君が作った予測AIは「明日は大量のドングリが降る」と予報を出してしまい...?新たなドタバタ劇にご期待ください!